混じる吐息と

漫画版VG  櫂×伊吹

Z32の徹子さんが以前掲載されていた

イラストを元に書かせてもらいました。

お風呂上がりのえっちです。

 使えと言われたリンスも使うようになり、髪を乾かす習慣を覚えてから暫く。
 広がりっぱなしであった伊吹の髪のボリュームは落ち着き、指通りも各段によくなった。これも全て、櫂の言いつけを守るようになってからだ。
 その日は風呂を借り、面倒な準備も終えて、やや風圧が強いドライヤーをかけながらソファの上で髪を乾かしていた。
 一足先に風呂を出ていた櫂は、伊吹の髪が乾くのを隣で待つ間もどこか上機嫌で、腰を抱いたりなどをしてちょっかいをかけてくる。
「くすぐってぇって……」
 照れ隠し混じりにそう言い、伊吹は櫂に背を向けながら湿った前髪を乾かすことに取りかかるも、背後の櫂が楽しげに「えー」などと言っているのが聞こえた。
 今日は久しぶりにセックスをする。
 久しぶりと言っても、たった数週間振りであるが。
 それでもセフレ時代では週に何度も求め合い、正式に交際らしい交際を始め、互いの関係性を保つための唯一の手段がセックスでなくなったとしても、頻度は多かった気がする。
 誘うのは五割が伊吹から、三割が櫂、残りはじゃれついてたら始まってしまった等。
 やはり受け入れる側の準備の手間や体調のコンディションがあるため、櫂に挿入される側を自ら好んで引き受けている伊吹が主にセックスをするか否かの主導権を握っており、頻度は多くとも櫂からしつこく求められると言った経験は今までもない。
 加えて櫂から誘うときは、大半が「伊吹の体調がいいなら抱きたい」という気遣いがワンクッション挟まる紳士さである。
 このとき、たとえ都合が悪くて拒んだとしても、櫂の機嫌が損なわれたことはもちろん一度だってなかった。セックスができなくとも櫂は伊吹との時間を大切にし、部屋で二人で映画を観たり、食事をしたり、うたた寝をするような何でもない時間を過ごしてくれる。
 当初は「体だけでも」と思っていたはずの伊吹であったのに、いつしか櫂の優しさと居心地の良さにすっかり溺れてしまっていた。
 ただただベッドの中でその日にあったことなどを報告して談笑しながら、伊吹が櫂の手を握れば優しく握り返して、最後はおやすみと微笑んでくれる夜の時間。それは、瞬く間に伊吹のこれまでの寂しさや孤独を払拭していく。
 ただ──そんな優しく、暖かな櫂ではあるが、彼からセックスを誘われた日は少し覚悟が必要であった。
 櫂はなにも、温厚で優しいだけの男ではない。
 今の大人びた様子を見ていると忘れるときもあるが、小学生の頃の櫂を知っている伊吹は、この男がただの優男でないことくらいは知っている。
 櫂の基盤にある支配欲と強引さ。それはセックスのときなどはサディストじみた一面としても現れ──伊吹がドSと罵ったときは否定せず本人は笑っていたのが怖い──普段も伊吹の反応を見て楽しみたいが為に、気まぐれに伊吹に迫っては、心を揺さぶるようなこっぱずかしい口説き文句を投げかけてくるような質の悪さがあった。
 そして、それすら様になってしまう妙な色気と眉目秀麗さが憎たらしい。
 櫂からのセックスの誘いとは、そんな櫂が本能のまま伊吹をめちゃくちゃに犯したいときに限られている。
 だからこそ体調を気にかけてくれるのだが、櫂の誘いに頷いたその日は、彼が普段は秘めている無邪気さと、強引さ、そして先述したサディストっぷりに余すところなく振り回される覚悟が必要なのであった。
 そして今日は、その日なのである。
 朝から単刀直入に抱きたいと言われた。
 それも、最後に致した日から数週間空いた今日に。
「あっ……も、こら……っ」
 今日はどうなるのだろうと、普段よりもあえて丁寧に時間をかけて前髪を乾かしていると、痺れを切らした櫂の手が伊吹の臀部に伸びる。
「いつまで乾かしてんだ? それ」
 揉まれることが増えたからなのか、やけに丸みを帯びつつある臀部を撫でられながら櫂は伊吹の肩に顎を乗せると囁く。
 やはり、言動にいつもより強引さが目立つ。
 セックスがしたくて、早く伊吹を犯したくて仕方のない雄の目と、拗ねた子供のような声の差にゾクリと総毛立った。
 伊吹が渋々ドライヤーを止め、咎めるような視線を送ると櫂は嬉しげに笑う。
「やっとこっち見た」
 耳元で囁き、唇の端へキスをしてくる上機嫌そうな櫂のスイッチが入る前にと、伊吹がドライヤーをテーブルへ置いた。そして、それが合図だったかのように櫂の方へと抱き寄せられ、伊吹の髪に顔を埋めてくる。
 櫂もシャワーを浴びた後であり、伊吹と同様に上着を素肌に羽織っただけ。すぐそこに櫂の体温を感じると、自然と喉がひどく乾くような錯覚に陥る。
 脂肪と筋肉が程よいバランスでついた男の胸を、相変わらず女性への愛撫のように揉まれ、伊吹は思わず吐息を漏らすと不安げに「ここですんの?」と櫂に問いかけた。
「なんで?」
 指の腹で乳首をなぞられ、伊吹の顔つきが徐々に蕩けていく。今となっては、性器への刺激よりも胸に施される愛撫の方が己の性感を煽るのだから恐ろしい。
「……ゴム……ない、し……」
 徐々に勃起しつつある乳頭をコリコリと転がされ、はあはあと息が上がっていく。
 男にしては大きく、ぷっくりと膨らんでしまった乳首は櫂に散々躾けられた証のようなものだ。関係を持った当初からやけに伊吹の胸に関心のあった櫂に対して、そんなところを触られても気持ち良くないと抗議をしていた頃が遠い昔のように感じる。
 櫂は手の平に馴染む伊吹の胸の弾力や、返ってくる反応を楽しみながら小さく笑い、「あーそうだなぁ」とわざとらしく相槌を打った。
「……じゃあこのままシていい?」
 熱を持った声が鼓膜から流れ込み、伊吹の脳を溶かす。
 最後に、櫂に中に出されたのはいつだっただろう。
 普段はゴムをつけ、なるべく行為後の負担や様々なリスクを減らしてくれようとする櫂が、すぐそこにある寝室にゴムをとりに行くことすらせず、伊吹に種付けをしたいとねだっている。
 腹が痛くなるから、ただでさえ量が多いのに、万が一なにかあったらどうする、なんて拒む言葉はたくさんあると言うのに、ズボンの上から後孔をグッと指圧されながら「だめ?」と言われると、そんな理性など容易くグチャグチャに掻き乱されてしまうのだ。
 あの、中に出された瞬間の、中も外も櫂に満たされる快楽は他では得られない。
 口内に唾液が溜まる。伊吹はすでに自身であらかた慣らし終え、ローションも仕込み、プラグで栓をした後孔が無機物な金属を期待から締め付けているのを実感しながら、櫂に視線を送った。
「……しょう、が……ないな……」
 櫂の指でプラグをグッと押し込まれ、中のローションが卑猥な音を立てる。
 溶けきった眼差しはすっかり期待して、櫂の指に合わせてすでに腰が揺れていることに伊吹は気づいていない。
 どこまでも淫らな恋人の色気に酔い、櫂は乳首に浅く爪を立てながら「伊吹、舐めて」と告げた。
 すでに緩やかに勃起している櫂のペニスの、挿入する準備。いつもなら長すぎるほどの前戯の時間すらも惜しいと言いたげな要求。
 伊吹はもうなにも言えずに、ただ頷くだけ。
 櫂に凭れていた体を起こすと、ゆっくりと服を脱ぎ、下着すらも床に落とすと膝立ちで櫂の前に立つ。発情し切っているのは分かるのに、伊吹のペニスは尿道からカウパーを滲ませつつも萎えたまま。その代わり、汗ばんだ白い太腿に、プラグと肉輪の隙間から溢れたローションが愛液のように糸を引いて垂れているのが見えた。
 伊吹はソファから降り、櫂の足の間に跪くと下着とともに下衣に手をかけ、ゆっくりと下ろす。
 そうするとズルリと目の前に現れた、相変わらず可愛げのない凶悪そうなペニスに顔を強張らせる。勃起し切っていない状態でもこうなのだから末恐ろしい。そんなことを考えつつも、櫂のペニスへ奉仕することを誰よりも伊吹本人が望んでいることなど、きっと櫂にはバレている。
 だから、させてくれているのだ。
 髪を耳にかけて顔を近づけると、ボディーソープに混じった蒸れた雄の匂いに加えて、下着の柔軟剤の香りが漂う不思議な芳香がする。
 櫂のそこはいつも匂いが薄い。
 当然ながらシャワーを浴びてから行為に及ぶことがほとんどで、よほど性急なシチュエーションでもない限り濃い匂いは嗅げず、ただでさえ綺麗好きで几帳面な櫂は体の隅々まで清潔に保っているため、人工的な芳香が体臭の大半を占める。
 それでも、いつか風呂をさぼった櫂のそこを味わってみたいとも思ってしまう。しかし普段から身なりを整えている櫂にそれを望むのは難しく、直接頼めばまた変態呼ばわりされてしまうだろう。
 そんなことを考えながら、すんすんと比較的匂いの濃い裏筋に鼻を押し付けて嗅ぎつつ、人形のように美しい顔を自ら櫂のペニスに擦り付けている伊吹の様子を、櫂は相変わらず変態だなぁと呑気に見守っていた。
 口にせずとも、伊吹が櫂に抱くアブノーマルな欲求などすでにあらかたバレていることを伊吹は知らない。
「勃たせるだけでいいよ」
 頭を撫でながら櫂が告げると、不満げにこちらを見上げてくる赤い瞳。
 遅漏気味でもある櫂の大きなそこを口で愛撫するなど顎が疲れて仕方ないだろうに、このマゾヒズムの傾向がある恋人は困ったことにそれを好んでいる。
 口に溜めた唾液をローションの代わりに亀頭へ垂らしながら、手でゆっくり扱き始めると同時に裏筋から睾丸に舌を這わせる伊吹はなにか言いたげで、それでも口よりも中に注ぎたいと暗に言われたことに内心興奮してしまっている体は疼いて仕方がない。
 ずいぶんと欲張りになってしまった。
 これも、櫂が甘やかすからいけない。
 ぜんぶ櫂のせいだと伊吹は大好きな目の前の男に責任を押し付けながら、渋々と言われた通り、硬度を保たせる程度の奉仕に留まる。
 大きく張った亀頭を舌で撫で、歯を立てないようにそのまま咥え込むと竿の部分を手で扱く。下品で厭らしい音を立てながら頭を動かし、皺の溝にまでくまなく舌を這わせた。
 手を伸ばした睾丸にはたっぷりと中が詰まり、普段にも増して重みが増しているような気がする。思わず惚れ惚れしながらそれを揉みしだき、見せつけるように竿の部分に唇を滑らせると櫂のことを見つめながら下から上へとゆっくりと舐め上げた。
 ビク、と反応する櫂のペニスが愛しい。
 熱い吐息を吹きかけ、もう一度口を大きく開くと次はそのまま喉奥まで迎え入れてみせる。
 まだ完全に勃起していないからこそ出来る所行だ。そうして徐々に口内のペニスが質量を増していき、喉を圧迫するようになった頃。
 伊吹は過剰に分泌された自身の唾液と、櫂のカウパーが混じったものをうっとりとした様子で啜り上げ、名残惜しそうに顔を離して尿道に舌を差し込み、ちゅっと吸い尽く。
 しょっぱいような、カウパーの味がする。
 目の前にはすっかり自分を犯す準備が整った、血管の浮き立つ櫂の逞しいペニスがあった。
「……ちょうだい」
 口寂しさを紛らわせるように、愛しげに性器に浮き立った血管にキスをして、自身の股座に手を伸ばすと後孔で咥え込んだままのプラグの柄の部分を摘み、引っ張ったり押し込んだりを繰り返して刺激を与える。
 櫂だけを写し込む赤い瞳は、もはやこれから先の性感だけを求める艶かしい色をしていた。
 まるで好物を食すように、目の前の雄を唇で挟んだり、舌を這わせたりと続きをねだる。
 伊吹の視線を受け、櫂は自身のペニスに手を伸ばすと濡れた湿っぽい音とともに、ゆっくりと何度か扱いて見せた。
 伊吹はそれだけで昂ってしまって仕方がない。体の奥が疼いて、漏れる吐息は熱くなるばかりであった。
「ここ座って?」
 床に座り込み、後孔に咥えたプラグを動かして自慰に浸る伊吹を自分の脚の上へ優しく誘う。
 熱に浮かされたようなぼんやりとした顔で、伊吹は頷きもせずにヨロヨロと体を起こすとソファに腰掛けた櫂の上に跨がる形で足を開いた。
 伊吹は櫂に凭れながら、臀部に手を這わすとプラグの柄を指でつまみ、肉輪を力ませながらズルリと引き抜いて、そのままプラグを床に放る。このまま、腰を下ろせばはしたなく疼いたままの奥を雄が抉ってくれるだろう。
伊吹が膝立ちになると、雑に慣らした後孔に自ら注いだローションが、櫂のペニスにトロリと糸を引いて垂れていくのが見えた。
 それは伊吹の体温ですっかり温められており、櫂は乾いた唇を舐める。
「そのまま腰下ろして」
 筋肉がつき、張りのある滑らかな太腿を撫でる。それだけで伊吹は敏感に反応し、あとは櫂の言葉に黙って従うのみであった。
 ヒクつき、唾液を溢れさせるかのようにローションが滴るそこは、中の腸壁が期待から蠕動しているのが分かる。息をゆっくりと吐いて、手でペニスを支えながら後孔へとあてがうも、緊張と期待からか少し強張っていた。それに普段の長ったらしい前戯もなく、いつもであればすでに何度かイかされてからの挿入となるのが、今日はそうじゃない。
 ちゅぷ、と蕩けた粘膜が櫂のコンドームを纏っていない亀頭を喰む。
 きっと、少し痛い。少しで済むかはわからない。けれど、伊吹はその痛みが自分にとってどれほど好ましいものなのかを知っている。
「ぁ、ぐ……っは、あ……」
 櫂の首に抱きつき、肩に顔を埋めながら腰を降ろした。粘膜が大きさに慣れれば腰を持ち上げ、そうして次はまた少し深いところまでを繰り返す。櫂のことを考えながら自慰をしている時と同じ要領で、徐々にペニスの大きさと形に慣らしながら櫂を受け入れていった。
 伊吹のゆるく勃起するばかりとなってしまったペニスは、後孔への圧迫感を受けて尿道から濁ったカウパーを垂らして櫂の腹を汚す。苦しそうな呻き声を上げながらも伊吹が興奮しているのは明らかで、だんだん腰を降ろすタイミングも早急になっていくのがいやらしい。エラの張った亀頭を加え、中頃まで進んだころ、今のところ肛門が裂けていないことに伊吹は安堵して、目の前の櫂に甘えるようにキスをした。軽くフェラをした後であったことを思い出したが、櫂が優しく舌を吸ってくれたのですぐにどうでも良くなる。
 厚みのある櫂の舌が絡むのは心地よく、伊吹がゆっくりと上下に腰を振ると背筋からゾクリと快楽が這った。薄いゴムを纏っていないだけで、普段と感じる熱が違うような錯覚すら覚える。櫂を萎えさせないよう、退屈させないようになるべく早く根元まで咥えたいのだが、なかなか体は上手く馴染まない。
「ん……ごめん……」
「なに?」
 喧嘩した時は上手く謝れないのに、こんな時ばかりはスラスラと謝罪の言葉が伊吹から出てくるのは、いまだ自分が櫂を満足させれるのはこの体しかないと思っているからであった。
 櫂は伊吹の頬を撫で、またもう一度唇にキスをする。
「普段なら、その、もっとスムーズにいくんだけど」
 萎えるだろ、と言いながら一度ペニスをズルリと引き抜くと櫂に抱きついた。やはり、何度繋がっていようと膣のようにはいかない。男である自分の性にさして不満などないが、櫂を受け入れることに関しては多少不便を覚えることもあった。
 ムードを壊してしまったかもしれない、なんてことを考えながら後ろ手で櫂のペニスを扱いて状態を維持しようとするが、伊吹はふと櫂のそこが柔らかくなってすらいないことに気づく。
 振り向き、自分の尻たぶに擦り付けられている櫂の昂ったままの性器を目の当たりにして、確認するように櫂の顔を見つめた。
「……いや、まあ、焦ったさはあるけどやっぱエロいからお前」
 櫂は照れ隠しするように半笑いになって、伊吹を抱き寄せた。そんな、櫂の誤魔化すような仕草に思わず伊吹の心の柔らかいところがキュンと締め付けられる。
 それはもう、櫂からすれば確かに焦ったさはある。無理やり奥まで咥え込ませてやりたい気持ちもあれば、強引に下から突き上げながら思い切り揺さぶってやりたい気持ちもある。
 だが、あの伊吹が。
 あの、櫂のためなら平気で自らの身を削るような繋がりばかりを求めていた伊吹が、自分の体を傷つけないように、ゆっくりと繊細な粘膜に負担をかけない程度の力加減で櫂を迎え入れようとしているのだ。
 これも、いままで櫂が、当初は伊吹に「しつこい」だの「殺すぞ」だの「やめろ」だの言われてもやたらと前戯に時間をかけ、たとえ伊吹にマゾヒストのきらいがあるとしても──本人は一応は否定している──互いに気持ちの良い刺激となる以外の痛みは感じる必要はないと言う情操教育を施してきた成果なのかと思うと、もはや一種の感動でもある。
 実際、たとえ裂けようと痛かろうと櫂を求めたであろう、いままでの伊吹になら、こんなことはさせてなかった。
 それに、伊吹のもどかしそうな表情も、櫂を気にかけるような弱々しい視線も、妖艶な腰使いも、やや反応している情けない伊吹の性器も、やはりどれをとっても雄の部分を煽って仕方がない。
 ゆえに、萎える暇などなかった。というのが、櫂の言い訳である。
 櫂は伊吹を抱きしめながら、先ほどまで櫂を咥えようとしていた伊吹の後孔に指をあてがった。
 まずは、中指を一本。小さな伊吹の声が、耳元で聞こえる。
 これくらい解れているなら問題ないなと、櫂はそのまま三本ほど指を挿入して、手前の前立腺を指の腹で揉んでやる。
「っあ、ぁ……ん、うぅ」
 相変わらず快楽にはとことん弱い。すぐに甘い声が出て、これなら奥が開くのも時間のうちだなと思いつつ、櫂は伊吹の弱いところをマッサージでもするように指で揉んだ。
「ていうか伊吹、ローション変えた?」
 普段より粘度が少ない気がするそれは今もなかなか乾かずに、そしてしっかり潤いを保っていることに気付いた。櫂の指に感じ入っている伊吹にお構いなく声をかけると、「うん」と舌足らずに伊吹は答える。
「ジェルの……っひ、ぁ……やつ、混ぜて……あ、そこ……ちょ、まっ、て……っ」
「ふぅん」
 手前はトロっとしているのに、指でも届く程度の奥の方はぬるりとまとわりつくような感触。伊吹の熱と体液が混じったそこは、まさにこれから犯される準備の整った粘膜である。
 触るだけで気持ちよさそうな伊吹の肉壁を、ゴムのない状態のペニスで奥まで味わったらどれほど悦いものなのだろうか。
 ペニスで圧迫されるものとは違い、指で的確に弱い場所を責められ甘イきを繰り返している伊吹の後孔は、下品ではしたない音が聞こえ始める。ローションが白っぽく濁り、指を引き抜くと糸まで引いた。
 尻を突き出すようにしたままピクピクと痙攣する伊吹の顔はすっかり恍惚としている。櫂に触られ、責められるといつもいつもこうなってしまうのだった。
「伊吹、ほら。柔らかくなってるからいけるだろ」
 小さな絶頂を繰り返し、奥の方も弛緩して開き始めているのは伊吹にもわかる。
 だが、いまこんな状態で櫂のものを受け入れたりなどしたら──伊吹が櫂の肩に顔を埋めたままグズっていると、櫂は見かねたように自分を跨いだままの伊吹の腰を抱え直して、再び膝立ちの状態にさせた。
 ちょうど、腰を下ろせば今度こそ咥え込めるだろう位置に。
「早く」
 櫂がそうして急かす声は、愉しげであった。
 刺激を求めるようにパクパクと開閉する後孔が、櫂の言葉によって熱を持つような感覚。
 伊吹は櫂に、そう言われたら拒めない。
 あとはもう、腰を言われた通りに降ろし、粘膜に再び櫂を迎え入れるのみであった。
「あ、ぐ……っう、あぁ……っ」
 先ほどよりも、抵抗がない。
 肉輪が広がるとあっという間に中程まで越えてしまったが、伊吹は不意に足に力を込めて留まると、首を横に振って「やだ」と訴えた。
 痛いわけではない。
 ただ、これ以上は。
 これまで何度も伊吹を抱いてきた櫂なら分かる。伊吹が嫌がる理由も、いま、どこを突こうとしているのかも。
 腸壁は圧迫され、それに伴ってすっかり開発された前立腺はいまもなお後孔を締め付け続けてしまう。
 そして締め付ければ締め付けるほど櫂のペニスの熱を感じ、その興奮が直接脳に回ると、何度も何度も軽い絶頂すら覚えるのだ。
 意思とは反して腰が揺れる。ダメだ、怖い、嫌だど思うのに、快楽に貪欲な体は言うことを利かない。
 “届いて”しまう。
 伊吹が慎重に、拒みながらもゆっくりと腰を降ろしていくと──見守っていた櫂が、伊吹の腰を掴み、そのまま下から思い切り突き上げた。
 強引にこじ開けられる。触れられもせず萎えた伊吹のペニスから、精液のような、カウパーのような、判別のしづらい体液がドロッと溢れたのだけが見えた。
 四肢の力が抜け、櫂に縋ることしかできない。強すぎる快楽はいっそ苦痛にも近いというのに、その苦痛を心地よいと脳が捉えるのだからどうしようもなかった。
 櫂によって躾られたそこは、勝手に亀頭へと吸い付き、種をねだるような動きを見せる。
 腰が引く。そして、また突き上げられる。
 肌がぶつかる音がして、櫂の恥毛が後孔に擦れて、密着してしまっていることを悟った。
 いま、自分がどんな声を上げているのかすら伊吹には分からない。きっとそれは獣のような声で、みっともなく、恥ずかしい声だろうに、櫂はなぜか聞きたがるのだった。
 そして、可愛いなどと寝ぼけたことを言う。
 腰を固定されて突き上げられるたび、内臓を抉られているような感覚はあって、それは確かに微かな痛みすらあるはずなのに、口から漏れるのは「もっと」という催促だ。大きさに慣らすようにさんざん結腸部を犯すと、櫂は一度抜けるかどうかのところまで引き抜き、もはや力の入っていない伊吹の脚で再び膝を付かせる。
「ほら。もう一回」
 櫂の手が、離れた。
 腰が抜け、あとはもうガクンと膝が折れるだけである。
 あらかじめ先端を咥えていた後孔は、支えきれなくなった自重によって奥まで飲み込むのみ。
「い、ぁ、ああ……っ! あ、やだ……っあ、い、ぐ……っう、うぅ……ッ、っ!」
 ごりゅ、と音がした。
 櫂には聞こえないだろうが、確かに、伊吹の胎内(なか)ではそんな音がしたのだ。
 臍の裏側辺りまで届いている。
 子宮口のように吸いつき、程良い加減で締め付ける伊吹のいちばん奥の、熱い熱い粘膜。ここを犯すと、伊吹はすぐにダメになってしまう。足先までピンとさせて、口では今も「いやだ」と繰り返しているのに、眺めるばかりで動かなくなった櫂の代わりに自身でずっと腰を振っている。
 セックスのことしか考えられなくなった伊吹は、幼くて、素直で、甘くて可愛い。
 中イきでしかもはや達することの出来ない伊吹は結腸を目掛けて自ら腰を振って櫂を求め、強すぎる快楽を恐れながらもそれを欲する。
「伊吹……イくときはちゃんと、イくって言えって言ってるだろ?」
 最初は、中で達することの増えた伊吹を相手に無理をさせないようにと櫂が設けたルールだった。
 それが伊吹が羞恥を煽ることで快楽に繋がると知った今では、もはやルールではなく二人が愛し合う上での小さな約束事の一つとなっている。
 叱るように下から突かれると、伊吹は一際大きな声を出して小さく呻いた。
 また、少しずつ櫂の腰が動く。
 それに併せて、ゆっくりと腰を振る伊吹の色気は櫂を瞬く間に魅了した。
「ぁ、も、イきそ、う……っぅ」
「お前、ずーっとイってんなぁ」
 耳元で、伊吹が小さく「イく」と伝えると、ギュウっと腸壁が締まった。熱くて程よく柔らかく、そして断続的に絞るように締め付けてくるそこは相変わらずの気持ち良さである。
 正直なところ、しばらく焦らされていた櫂としては早くこの体を貪りたい。しかし、甘えてくるように何度も櫂に絶頂を迎えることを伝えてくる伊吹のいじらしさも捨て難かった。
 普段ならば、自分の欲よりも甘える伊吹を選び、我慢もできただろう。
 だが、状況が状況である。
 お互いに会う時間はあったが、試験期間などが重なれば流石に気も使うわけで。
 伊吹は知らない。櫂が年相応に、会えない時間が長引けば伊吹のことを瞼の裏で犯しながら、投げやりな自慰を行っていることも。
 櫂の妄想の中で自分がどんな風に可愛がられているかなんてことも、もちろん知りはしない。
 伊吹に触れ、味わい、愛でることのできる今。
 櫂がどれだけ、それを待ち侘びていたかなど。櫂を慕っているのは自分ばかりであると、こんな関係になった現在でも心のどこかで思っている伊吹は、向けられた独占欲の全貌が如何程であるかなど想像すらできなかった。
 健気に櫂の名前を呼び続ける伊吹にキスをして、舌を差し込みながら抱き寄せると律動をいっそう激しいものにさせる。
 深いキスを施され、上手く嬌声すら漏らすことのできない伊吹は、櫂の目の前で顔を蕩けさせ、舌を吸われるだけとなっていた。
 漏れ出した白く濁ったローションは二人の体液が混ざり合い、ドロリと泡立ってソファを汚す。
 耳を塞ぎたくなるような下品な音と、肌がぶつかる音。そして、獣のような荒い呼吸。
 囁かれる愛の言葉などない。
 それはセックスというよりも交尾であった。
「伊吹……出すから」
 舌を何度か吸いながら、櫂が告げる。けれども、伊吹の目はすでに焦点も合っておらず、揺さぶられながら幼子のようにこくんと何度か頷くだけ。
 嗚呼、かわいい。櫂はゾクリと欲求が満たされるような気がした。ほんの、少しだけ。
 抱き寄せた伊吹の、白い首筋。櫂は舌舐めずりをすると、そこに歯を食い込ませる。
 肉に歯が食い込む感触。瞬間、伊吹の中が痛いほどに締まって、歯形のついた伊吹の首の皮膚を舐めながら櫂は満足げに中の粘膜へと吐精した。
 櫂の耳のそばで伊吹が小さく「イく」と言うと、中に注がれながら派手に絶頂を迎えたことを告げる。
 内側から溶かされるような、櫂の長い射精。
 普段はゴム越しで感じる精液の熱が、今日は伊吹の奥の方で爆ぜた。それだけで、胸の奥まで熱くなるのはどうしてなのだろう。
 最初の種付けを終え、櫂が伊吹の腰を浮かすと注がれた精液がゴポっと生々しく降りてくるのが見えた。床だけでなくソファのカバーも洗わないといけないな、などと呑気に考え、櫂は完全に力の抜け切った伊吹からやや萎えたペニスを抜き、すぐ隣に横たわらせる。
 射精を終え、萎えたとはいえどまだまだ十代の精力は底なしで、おまけに櫂には絶倫の疑惑もあった。
 ふうふうと肩で息をしながらソファで寝そべる伊吹の足の間に体を割り込ませると、自らペニスを扱いて見る見るうちに硬度を持たせていく。
 ──ぼんやりとする視界の中。
 櫂が、幼い頃のような、無邪気さすら感じさせる笑みを浮かべているのが見える。
 伊吹はそれだけで、中が疼いて仕方がない。
 ぼんやりとする頭で、今晩は明日の昼までには解放されたら良いななどと考えながら手を広げた。
「……おいで、櫂」
 せっかく乾かされていた伊吹の髪は、いまはもうすっかりと汗ばんでいる。
 ソファが、再び軋んだ。

© 殴打